顧客インサイトの見つけ方|UGC・口コミ分析から企画へ
UGCや口コミを集めてはみたものの、「好評です」「リピートしたい」といった感想が並ぶだけで、次の企画に何を活かせばよいか分からない。そうした状態から抜け出すための考え方が、顧客インサイトの発見です。顧客インサイトとは、購入や利用の背景にある、本人も言葉にしていない理由や感情のことです。
この記事は、UGC・口コミ・レビュー・SNSコメントを企画の材料にしたいマーケティング担当者向けです。結論を先に書くと、インサイトは「読んで気づく」ものではなく、収集→分類→仮説→検証の手順で作るものです。そして、見つけたインサイトはショート動画の冒頭の状況設定や、クリエイターに渡す投稿条件にまで落とし込んで初めて施策に使えます。
この記事では、顧客インサイトの定義、UGCを使った分析の手順と型、企画への落とし込み、個人情報・利用規約・著作権の注意点を扱います。UGCそのものの定義はUGCとは?の記事で整理しています。
顧客インサイトとは、行動の背景にある言葉にされていない理由
顧客インサイトは、ニーズと混同されやすい言葉です。ニーズは本人が自覚している要望で、アンケートで「何がほしいですか」と聞けば答えが返ってきます。一方、インサイトは「なぜそれがほしいのか」「なぜ今まで買わなかったのか」の部分で、本人に聞いてもすぐには言葉にならないことが多いものです。
| 区分 | 何を指すか | 例(キッチン用の保存容器) | どこから分かるか |
|---|---|---|---|
| 事実・行動 | 実際に起きたこと | 週末にまとめて作り置きをしている | 購買データ、投稿の写真や動画 |
| ニーズ | 本人が言葉にできる要望 | 重ねて収納できる容器がほしい | アンケート、レビューの要望欄 |
| インサイト | 要望の背景にある理由や感情 | 冷蔵庫を開けたときに中身が見えないと、作ったことを忘れて無駄にしてしまうのが嫌 | UGCの言い回し、不満の書き方、コメントのやりとり |
企画に使えるのは、行動を変えるきっかけになる3つ目です。「重ねて収納できる」という機能を伝えるだけでは他の商品と差がつきにくくても、「作ったことを忘れない」という理由に結びつけると、動画で見せる場面が具体的になります。
UGC・口コミは理由の手がかりが多いが、偏りもある
UGCや口コミには、アンケートの選択肢では拾えない言い回しや利用場面が含まれています。一方で、書く人の偏りもあるため、情報源ごとの特徴を理解してから使います。
| 情報源 | 手がかりになりやすいこと | 偏り・注意点 |
|---|---|---|
| ECのレビュー | 購入の決め手、使ってみて気づいた点 | 満足度が特に高い人・低い人が書きやすい |
| SNSの投稿(画像・動画) | 実際の利用場面、組み合わせている物 | 見せたい場面に偏る。PR投稿が混ざる |
| SNSのコメント・返信 | 購入前の疑問、他の人との比較 | 文脈が短く、元の投稿と合わせて読む必要がある |
| 問い合わせ・Q&A | 購入前の不安、つまずく場所 | 困った人の声に偏る |
| 検索クエリ | 呼び方、組み合わせて検索される語 | 理由は書かれていないため、他の情報源と合わせる |
口コミ全体を集めて活用する考え方は口コミマーケティングの記事で扱っています。分析の対象にする情報源は、目的に合わせて2〜3種類に絞るほうが、分類の基準をそろえやすくなります。
インサイトは収集→分類→仮説→検証の4つの手順で見つける
UGCを読んで気づいたことをそのまま企画にすると、担当者の印象に左右されやすくなります。ここでは、誰が進めても同じ観点で振り返れるように、4つの手順に分けて進め方を説明します。
手順1:収集は「問い」と「範囲」を決めてから始める
集める前に、何を知りたいのかを1文の問いにします。「購入をためらっている人は何を気にしているか」「リピートしている人はどんな場面で使っているか」といった形です。問いが決まると、集める期間、媒体、キーワードの範囲も決まります。
記録用のシートには、次の項目を用意しておきます。
- 取得日、媒体、投稿日
- 投稿のURL(社内の管理用。外部には共有しない)
- 本文の要約と、特徴的な言い回しの短い引用
- PR表記の有無、企業との関係が分かる表示の有無
- 利用場面、比較対象、不満、きっかけなどの分類欄(手順2で記入)
収集は公開されている情報の範囲で行い、取得の方法は各媒体の利用規約に従います。自動で大量に取得する方法をとる場合は、規約で制限されていないか、提供されているAPIや公式の機能で取得できないかを先に確認します。収集や分類を支える機能の種類はUGCツールの比較記事で整理しています。
手順2:分類は「理由」に着目したラベルを付ける
集めた投稿に、内容を表すラベルを付けていきます。「良い」「悪い」の評価ではなく、行動の理由につながる観点でラベルを作ります。
- 利用場面:いつ、どこで、誰と使っているか
- きっかけ:何を見て、何が起きて使い始めたか
- 比較対象:何と比べているか、何から乗り換えたか
- 不満・ためらい:何が気になっているか、なぜ買わなかったか
- 工夫:説明書にない使い方、組み合わせている物
- 呼び方:商品やカテゴリを本人がどう呼んでいるか
1件の投稿に複数のラベルを付けてかまいません。ラベルの付け方が担当者によってぶれやすい場合は、最初の数十件を2人が別々に分類して照らし合わせ、ラベルの定義を文章にしておきます。新しいラベルがほとんど出てこなくなったら、いったん手順3に進みます。
手順3:仮説は「状況・感情・行動」の1文にまとめる
分類した内容から、インサイトの仮説を書きます。型は「〇〇な状況の人は、〇〇と感じているので、〇〇する(しない)」です。
たとえば「平日に料理をする時間が取れない人は、週末に作った物を無駄にしたくないと感じているので、中身が見える容器を選ぶ」という形です。この1文に、状況(誰が、どんな時に)、感情(何を気にしているか)、行動(何を選ぶか)が入っていれば、企画の材料として使えます。
仮説は1つに絞らず、3〜5個を並べます。それぞれに、根拠になった投稿のラベルと件数、反対の内容を示す投稿があればそれも記録します。都合のよい声だけを集めた仮説は、施策で外れたときに原因を振り返れません。
手順4:検証は別のデータで確かめる
UGCから立てた仮説は、UGCだけで確かめることはできません。別のデータで同じ理由が見られるかを確認します。
| 検証の方法 | 確かめること | 注意点 |
|---|---|---|
| インタビュー | 仮説の理由が本人の言葉で出てくるか | 誘導的な聞き方を避け、過去の具体的な行動を聞く |
| アンケート | 仮説の状況にあてはまる人の割合 | 選択肢に仮説の言葉をそのまま入れると回答が寄る |
| ショート動画での比較 | 冒頭の状況設定を変えたときの反応の違い | 1本ずつの差は偶然の影響が大きい。複数本で見る |
| 検索クエリ | 仮説に出てくる言い換え語が検索されているか | 検索の理由までは分からない |
ショート動画で比較する場合は、再生数だけでなく、保存数、コメントの内容、最後まで見られた割合など、仮説に関係する指標を先に決めておきます。指標の置き方はインフルエンサー施策のKPI設計の記事を参考にしてください。
分析の型を持っておくと、読み手ごとの解釈のぶれが減る
毎回ゼロから考えるより、よく使う分析の型を決めておくと、担当者が変わっても同じ観点で読めます。
| 分析の型 | 立てる問い | UGCでの手がかり | 企画への落とし込み |
|---|---|---|---|
| 場面×不満 | どの場面で何に困っているか | 「〇〇のときに〇〇で困る」という書き方 | 困る場面から動画を始める |
| 乗り換え理由 | 何から、なぜ乗り換えたか | 以前使っていた物との比較 | 比較の軸を1つに絞って見せる |
| 購入前の不安 | 何が分からなくて迷ったか | 購入前の質問コメント、問い合わせ | 不安に答える場面を動画内に入れる |
| 自分なりの使い方 | 想定外の使い方はないか | 説明にない使い方の投稿 | 新しい利用場面として提案する |
| 呼び方 | 商品やカテゴリをどう呼んでいるか | 投稿文やハッシュタグの言い回し | 字幕・キャプションの言葉に使う |
型の選び方は、手順1で決めた問いに合わせます。購入をためらう理由を知りたいなら「購入前の不安」と「場面×不満」、リピートの理由を知りたいなら「自分なりの使い方」と「乗り換え理由」が出発点になります。
ショート動画の企画と投稿条件に落とし込む
インサイトは、企画書の中で終わらせず、動画の構成とクリエイターに渡す条件の文にまで翻訳します。
- 冒頭の数秒:インサイトの「状況」をそのまま見せる(例:冷蔵庫を開けて中身を探す場面)
- 中盤:商品がその状況をどう変えるかを、実際の使用場面で見せる
- 字幕・キャプション:UGCで見つけた呼び方を使い、社内の用語は避ける
- 伝えてほしいこと:機能の一覧ではなく、状況と理由を1〜2点に絞る
- 本人に任せる部分:使ってみて感じたことは、クリエイター自身の言葉で話してもらう
投稿条件には、UGCの言い回しを台本として渡さないことも大切です。生活者の口コミを台詞としてなぞらせると、本人の体験ではない表現になり、視聴者に誤解を与えるおそれがあります。企業が依頼した投稿である以上、広告であることが分かる表示も条件に入れます。
募集型のサービスでは、企業が案件条件として投稿条件を掲載し、応募したクリエイターを審査して発注します。lit.link Boost!もその一つで、インサイトを「見せてほしい場面」「避けてほしい表現」として条件文に書いておくと、応募する側も企画の意図をつかみやすくなります。新商品の発売時にUGCとPR投稿を組み合わせる流れは新商品PRの記事で扱っています。
個人情報・利用規約・著作権の扱いに注意する
UGCの分析では、公開されている投稿であっても、取り扱いに注意が必要な点があります。
個人情報:アカウント名や投稿内容の組み合わせによって、特定の個人を識別できる場合があります。分析用のシートは社内の限られた担当者で管理し、社内外に共有する資料では投稿者を特定できない形に要約します。取り扱いのルールは、個人情報保護委員会が公開している法令・ガイドラインで確認します。
利用規約:各媒体の規約には、コンテンツの利用や情報の取得方法についての定めがあります。分析の方法や、投稿を外部で使う場合の手続きは、事前に規約を確認します。
著作権:投稿の文章・画像・動画は、投稿者の著作物にあたる場合があります。社内の分析で要約して扱うことと、広告やLPに転載することは分けて考え、転載する場合は投稿者の許諾を文書で取ります。
まとめ
顧客インサイトとは、ニーズの背景にある、本人も言葉にしていない理由や感情です。UGC・口コミ・レビュー・SNSコメントは、その手がかりが多い一方で書く人の偏りもあるため、目的に合う情報源を絞って使います。
進め方は、問いを決めて収集し、理由に着目したラベルで分類し、「状況・感情・行動」の1文で仮説を立て、別のデータで検証する順です。見つけたインサイトは、動画の冒頭の場面、字幕の言葉、クリエイターへの投稿条件にまで落とし込みます。分析と外部への掲載は分けて考え、個人情報・利用規約・著作権・PR表記の扱いを事前に確認しておきましょう。
参考
- 個人情報保護委員会「法令・ガイドライン等」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/
- 文化庁「著作権」 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/
- 消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/
- Instagramヘルプセンター「利用規約」 https://help.instagram.com/581066165581870
- TikTok「サービス規約」 https://www.tiktok.com/legal/page/row/terms-of-service/ja
- Google Search Console ヘルプ「検索パフォーマンス レポート(検索結果): 概要と基本設定」 https://support.google.com/webmasters/answer/7576553
よくある質問
顧客インサイトとニーズの違いは何ですか?
ニーズは「軽い水筒がほしい」のように本人が言葉にできる要望です。顧客インサイトは「重い荷物を持つ日が多く、これ以上荷物を増やしたくない」のように、その要望の背景にある本人も言語化していない理由や感情を指します。企画に使えるのは、行動を変えるきっかけになる後者です。
UGCや口コミは何件くらい集めれば分析できますか?
一律の件数はありません。件数よりも、利用場面や不満の理由が具体的に書かれた投稿がどれだけあるかが重要です。新しい分類ラベルがほとんど出てこなくなるまで読み進め、そこで一度仮説にまとめる進め方が現実的です。
PR投稿も分析の対象に含めてよいですか?
含める場合は、自然発生の投稿と分けて記録してください。PR投稿は企業の依頼内容が反映されているため、生活者の自発的な声と同じ重みで扱うと仮説が偏ります。PR表記の有無を記録項目に入れておくと区別しやすくなります。
集めた口コミを広告やLPにそのまま使ってもよいですか?
社内での分析と、外部への掲載は分けて考えます。投稿の文章・画像・動画には投稿者の権利があるため、転載する場合は投稿者の許諾を取り、各媒体の規約も確認します。事業者が選んで広告に使う時点で事業者の表示になるため、景品表示法上の扱いにも注意が必要です。
見つけたインサイトが正しいかどうかはどう確かめますか?
仮説ごとに、別のデータで確かめる方法を決めます。たとえば、インタビューやアンケートで同じ理由が出てくるか、仮説を反映した動画で保存数やコメントの内容が変わるか、言い換え語の検索が見られるかを確認します。1つの結果で結論を出さず、複数の確認を重ねます。
この記事は「インフルエンサーマーケティングとは?始め方・費用・効果測定」の関連記事です。
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